「不可触民」――それはヒンドゥー教的観点から「不浄」と見なされる職業に従事し、それゆえに差別の対象となってきた人びとをいう。そして現代インドでは、公式には「不可触民」は存在しないことになっているが、実際には差別は存在し、それへの異議申し立てが行われ続けている。本書は、イギリス統治下において、そして独立運動が展開する過程においても、抑圧され周縁に追いやられた人びとが声を上げていく姿と、それをさらに抑圧し周縁に追いやろうとする人びとの相互作用、そしてナショナリズムが高揚し「インド国民」が定義されていく中でも、あえてそれに異議を唱え「非愛国的」とのレッテルを貼られながらも抵抗していく「不可触民」の行動原理を汲み上げる。