グローバルな人の移動の増加、多言語化、多様化が意識にのぼりつつある中、言語政策は社会にとって重要な役割を果たしている。言語政策学会の全面協力のもと、言語政策および、その研究の分野を示し、全体像を明らかにする。
■「まえがき」より
本書は、グローバルな人の移動の増加、社会の多言語化、多様化が意識にのぼりつつある現在、言語政策、そして言語政策研究に関心をもつ人々を対象に、言語政策とその研究の分野を示し、全体像を出来る限り明らかにすることを目的に編集された。
本書は、序論と4つの部から構成される。序論では上に述べた言語政策とは何か、言語政策にとって言語とは何か、といった言語政策をこれから考えるうえで最も大切になる基本的な枠組みを述べる。
第1部と第2部は言語政策の基礎として8つの章を用意した。第1部では、言語政策が扱っている対象や内容について論じる。まず言語政策研究史を概観し(第1章)、言語政策の重要な課題である言語の地位の考え方とその変化を述べる(第2章)。さらに近代化に応じるために言語に対して具体的にどのような変更・修正が行われてきたかを紹介し(第3章)、さらに現在のグローバル化によって重要さが増している異言語間コミュニケーションの政策を取り上げる(第4章)。
第2部は言語政策がどのようなプロセスで実現されているかを論じる。まず言語政策の出発点となる言語問題の考え方、とくに言語問題はだれにとっての問題かといった言語政策の正当性にかかわる諸点について考察する(第1章)。次いで、政策研究の枠組みを参考にしながら、言語問題がどのようなプロセスを経て、政策課題となり(第2章)、さらにさまざまな政策の担い手によって実施計画が作られるのかを述べる(第3章)。そして言語政策のプロセスの最後に位置づけられる、実施された政策の評価とその課題を概観する(第4章)。
言語政策研究は極端に学際的である。そのため研究の方法も多くの場合は研究者の背景にある学問分野によって変わってくると言える。そのため第3部では言語政策研究の研究方法をそれぞれの学問分野ごとに述べるようなことはせず、研究対象の規模や広がりをもとに、事例研究(第2章)、地域研究(第3章)、比較研究(第4章)、量的研究(第5章)に分けて紹介する。また、言語政策研究に際しての留意事項についても触れる(第1章)。
第3部までが言語政策についての基礎編だとすると、第4部は言語政策研究のいわば実践編になる。ここでは言語政策研究の最前線として、10章にわたって各分野のこれまでの研究でわかっている知見や課題を紹介する。ある程度の分野は扱えたと思うが、残念ながらすべてを網羅することは到底叶わなかった。その点、前もってご容赦をお願いする次第である。
また、本書では第1部、第2部、第4部に研究の具体例を示すためにコラムを置き、研究者の方々にご自身の研究論文の紹介をしていただいた。関心をもたれた読者はぜひ紹介された論文を手に入れて一読されることをお勧めする。