まえがきより(一部省略・修正)
第1章は,クリスチャン・マティスンの論考で,音声から日常のディスコースへと探究の領域を移動しながら体系機能言語理論を概観し,言語とかかわるための体系機能的なストラテジーを導入している。ストラテジーとして導入される音声ヨガやディスコース日記,ディスコース地理と意味の潜在性をとらえる理論が言語を探究するのに必要な「言語のセンス」を高め,後続する章の探究を支援している。
第2章では,日本語の体系機能文法を意味分析のリソースとしてもちいて,日本語の意味・文法システムとそのシステムの具現化をテクスト環境に位置づけ記述している。それは,テクストの底辺にある意味をあらわにするのに体系機能的なテクスト分析が有用であり,言語の専門家でなくともテクストの意味づくりを知ることができるということの一例でもある。
第3章は,照屋がマティスンと開発をすすめているレジスター研究の概要を示したものである。英語教育,日本語教育,言語学教育に実践応用している枠組みでもある。意味のまとまりとしてのテクストに焦点をあて,異なるコンテクストで展開する社会意義活動を8つのフィールド(活動領域)に類型化し,あるフィールドで展開するテクスト群があるレジスター的な意味文法的素性をもちながら,テクストタイプとして具現していることを例示している。
第4章は,ジョン・ベイトマンのマルチモダリティ理論と方法論に関する論考である。意味づくりの様式である意義モードを理論・実証的に再考し,意義モードを物質と形式,ダイナミックなディスコース意味論が密接に相関したまとまりとして定義づけ,それが存在論的基盤となってはじめてマルチモーダルメディアとジャンルの緻密なマルチモーダル分析が可能となることを提示した。
第5章の奥泉香の論考は,意味表現様式の異なるひとつ以上の様式,モードによって具現されたマルチモーダルテクストのなかから絵本を国語科教育の学習対象としてとりあげ,絵本のイメージと言語が相補的に,かつ独立してつくりだす意味を系統的に提示している。国語科の授業で示された中学生の意味づくりが,体系機能的なマルチモーダル研究とマルチモーダルリテラシーの必要性を示唆している。
第6章は,ハイジ・バーンズの論考で,第二言語発達を把握することに焦点をおきながら,公共一般や特殊な場面での言語使用に不自由を感じない第二言語の使用者を育成するために,指導による言語発達をどのように想定するべきなのかという疑問を専門家に投げかけ,それと同時に,体系機能理論をベースにした方法論だけでなく,教育実践につなげていく枠組みを提示している。
第7章は,公開講座のためにハリデー先生が準備なされた未出版の原稿を照屋が翻訳した。ハリデーは,言語の性質と機能についての意識を獲得することは,教育をうけた一般大衆でも可能であり,言語がもつ意味づくりの機能を理解することが21世紀への挑戦につながっていくことを,体系機能言語学的な観点から多言語を複雑な環境社会体系のなかに位置づけている。