経済と方言との関わりや芸術・放送における方言使用、また地方自治体などによる方言活用の取り組みといった、社会における方言のあり方を紹介し、今後の展望を示す。
■「豊かな社会生活のために第1巻への招待」より
かつて方言は恥ずかしいもの、忌避すべきもの、隠すべきものであった。親しい家族や友人との間で話すことは許されても、人前で口にすれば、密やかな嘲笑の洗礼を受けるものであった。しかしながら、いまや方言は社会のいたるところでおおっぴらにその姿をひとめにさらす。井上史雄『日本語の値段』(2000年、大修館書店)が指摘するように、平成期以降、方言は日本人の娯楽の対象となり、社会のさまざまな場面で用いられるコンテンツのひとつとなった。もちろん、残念ながらそれは方言自体の生命力を反映するものではない。一部の有力な方言を除き、依然として方言は衰退の途にある。しかし、一方で、消滅の危機に瀕する方言は、日常の言語生活における活躍の場を狭めることと引き換えに、社会のさまざまな場面へと進出した。私たちが豊かな社会生活を送るのに欠かせない存在へと、方言は変身を遂げつつあるのである。
本巻ではこうした現代社会における方言の広がりを論じる。果たして方言は社会の活性化に寄与し、人々が豊かな生活を送るために役立つことができるのだろうか。社会生活のさまざまな側面へと拡大した方言活用の位置づけをあらためて確認し、その社会的な意味を検討することは実践方言学の重要な課題のひとつとなる。
「社会の活性化と方言」と題した第1巻は、私たちの社会生活をより豊かなものとするための方言の活用法を取り扱う。