子どもたちのことを、愛情を込めて「ちいさい人」と呼び、彼らへ昆虫や植物のいのちの輝きを伝えるため、98年の生涯を費やした生物画家 熊田千佳慕(くまだ・ちかぼ)の没後15年を記念した「熊田千佳慕の世界 愛するからこそ美しい」展の図録兼書籍です。千佳慕は自身の仕事を「神さまへのレポート」と言い、地球で共に生きる昆虫や動物、草花たちのいのちの形を、その連鎖のゆりかごである土までも真摯に写しとろうと描きました。そして自然は「愛するからこそ美しい」と、心の目の純粋さを願い続けました。千佳慕がそのような思いを抱くようになったきっかけは、20代後半から経験した戦争です。最愛の父を空襲で失い自ら荼毘に付した経験を持つ千佳慕は、戦後、自分たち大人が引き起こした過ちを悔い、子どものための仕事しかしないことを誓って、その後60年以上、ぶれることなく意志を貫きました。この世界を自分たち人間の視点だけで見るのではなく、虫たちの目で見つめることの大切さを発見した、熊田千佳慕という希有な人の心からの言葉とまなざしが捉えた精魂込めた作品群によって、「クマチカ先生」へもう一度めぐり会える一冊です。