私はあの人と付き合うとるとよ。
あの人を好いとると。
そう言い残して、一人の女が姿を消した。
失踪したのか、死亡したのか――。
圧倒的な「不在」がもたらす感情を炙り出す、
不穏でミステリアスな物語。
誰にでも自分だけの神様がいるのかもしれない。
だとすれば、その神様は私の味方であるはずだ。
東京から佐世保の和菓子店に嫁ぎ、娘を育てながら若女将として生きる、晶。誕生祝いの夜、夫から贈られたエルメスのバングルを手首に巻きながら、好きな人がいる、その人のところへ行くと告げ、いなくなった。残された夫・伸吾の怒りと嘆き、愛人・武藤の不審と自嘲、捨てられたと感じながら成長する娘・結生……。「不在」の12年間を、さまざまな視点から綴る長編小説。