崩れゆくものこそ、美しく愛おしい。窓を叩く激しい雨、哀切なピアノのメロディ、そしてかすかな恋の予感。それは破滅への序曲なのか? ピアノ調律師と自動車整備工の平穏な恋は、一人の男の出現によって、思わぬ局面を迎える。甘やかで残酷な、二つの愛のはざまに揺れる、女・三十歳の選択。極上の恋愛小説!
<本文抜粋>
〈苦味は感覚の必需品である。苦味とか哀しみとか痛みとか、それらは生きていく上で欠かせないものなのだ〉
〈幸福なんてものの概念をいちいち探ったりしない。それが、最も健全な状態なのかもしれない〉
〈「好き」の分量が多いほうが、いつだってみっともない行動をする。みっともない分だけ相手はしらけていく〉
〈あの人は今、何をしているのだろう。答えを知ったところで、それは薬にもなるし毒にもなる〉
〈単なる偶然を、つい運命などという大げさな言葉に置きかえてしまう。これだから恋愛は嫌だ。一番嫌いな女に自分自身がなってしまう〉
〈別れるとは、どんな状態を指すのだろう。逢わない、連絡をとらない、相手の温もりをあてにしない。胸がどんより重くなった〉