ここにいま、新しい「遠野物語」の誕生
命たからかに生きた少女の100年の時代の記憶。
正月にはお正月様をお迎えし、十五夜には満月に拍手(かしわで)を打つ。神を畏れ仏を敬う心にみちていた時代の、豊かな四季の暮らし。明治・大正・昭和を、実母を知らずに、けなげに生きた少女の成長物語。
これは、1人の女の子、寺崎テイの物語である。明治42年、栃木県足利の小さな村に生まれ、平成21年に100歳になった。テイは、米寿をすぎたころから、心の奥の重石がとれたかのように、幼いときの思い出を語りはじめた。生後すぐに実母と引き離されたこと、養女に出されたときの哀しさ、母恋いの想い……。と同時に、その回想の中には、高松村の四季おりおりの暮らしが、色鮮やかに立ち現れてきた。桑の芽吹きの色、空っ風のうなり、ヨシキリの鳴き声、村人の会話……。いま私は、母テイの“口寄せの女”となって、100年前に生まれた女の子が、何を感じ、何を学び、いかに生きていったかという物語を綴っていこうと思う。著者