山河の美しさ、芸術の美しさ、人格の美……美は、さまざまな位相をとって人間の前に立ち現われ、より高い価値へとひとをいざなう。では、ひとはいかにして「美」を発見し、どのようにこれを受け入れてきたのか。最高の美とはいかなるものなのか。本書は、美についての理念の変遷や芸術の展開と関連づけながら、その存在論的意味を解明した美についての形而上学である。
美は人間の希望である真と善と美とは人間の文化活動を保証し、かつ、刺戟してやまない価値理念である。真が存在の意味であり、善が存在の機能であるとすれば、美は、存在の恵みないし愛なのではなかろうか。われわれは美しい山河を眺めただけですら、救われた思いに浸る。卓越した芸術作品の美に接すれば、人間の偉大さにうたれ、自分が人間に属することを誇りに思うであろう。美は、たしかに、挫折し苦しむことの多いわれわれに差し出された存在の光りのようにも思われるではないか。美はこのようにして、人間の希望である。この輝かしい経験内容である美を反省しないでいることは、人間の栄光と喜びとについて考えずにおくことになる。本書より