出会いとは何か。そこでは何が生まれているのだろうか。村上春樹の短編集『一人称単数』を中心に、臨床心理学者が各作品を一つの夢のように読み解きながら、出会いの本質にスリリングに迫る。初期の村上作品では「出会い損ね」が描かれていたが、『一人称単数』では人と人との出会いが見事に生まれている。そこにはデタッチメント(孤立)からコミットメント(関与)への変化も見られる。このような出会いについて、心理療法の手法も応用しながら「どのようにして出会いは可能になるのか」を解き明かす試みが本書である。出会いにおいて共有される芸術作品などの重要性、出会いがシフトした先に生まれる意外な深まりなども辿りながら、出会いがいかに癒やしをもたらすのかについても考察する「こころ」の探究書。